【日曜メッセージ】「牛一頭と祈りから」《卒業記念礼拝》

Date:2021.02.28

「 あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ。 」            

(ヨハネによる福音書15章16節)

皆さんは神に選ばれてこの学校で学びました。コロナ禍で多くの忍耐を強いられましたが、共に悩み、考え、助け合ったのは今後の大きな力となりましょう。今日はこの学校の創立者、黒澤酉蔵先生のお話しをします。

黒澤先生も神に選ばれ、学校設立をはじめ社会で多く役割を与えられた人でした。黒澤記念講堂2階の資料室には当時の写真があります。それは「牛一頭と祈り」から始まった姿でした。お金も無く、牛舎も家も借りて酪農を始めましたが、その志と祈りが周囲の人の心を動かし、必要なもの全てを神が与えてくださったのでした。

黒澤先生には若い頃に二つの出会いがあります。一つは足尾銅山の公害被害者救済運動を行った田中正造さんとの出会いです。弱くされた人々を命がけで守る正造さんの生き方が、16歳の黒澤青年の心を動かします。彼は60歳の正造さんの宿を突然訪ね、その崇高な志を学びます。翌年、二人は理不尽な形で投獄されます。それも神の選びです。神の御心は理不尽なことも多いのですが、牢獄で二人は聖書の深さに向き合います。正造さんはその活動において聖書を支えとしました。71歳で生涯を終えるまで、正造さんの傍にはいつも聖書がありました。

牢獄の中での黒澤先生の聖書との出会い。これが二つ目の出会いです。その後、黒澤先生は北海道に移り、24歳の冬、今もテレビ塔の近くにある石造りの教会(当時メソジスト札幌教会)で洗礼を受けます。そして、キリスト者として、「牛一頭と祈り」から新たな人生を始めます。朝早く乳を搾り、リヤカーで遠く家々を訪ねて売り歩く。どれほど大変でしたでしょうか。しかし、正造さんから引継いだ志と聖書が、萎えそうな心を強めます。その姿は、新約聖書のパウロの姿に重なります。黒澤先生もそのパウロに学んだことでしょう。数年後、同じ教会で結婚式を挙げ、黒澤夫妻は志を一つにして人生を歩みます。二人の愛唱聖句は今年の年度聖句でもあるローマ書5章「苦難は忍耐を生み出し、忍耐は練達を、練達は希望を生む」でした。

「三愛主義」と「健土健民」の建学の精神を学ばれた卒業生の皆様、志と聖書を通して神を信じる心があれば、神に選ばれた者として、必要なものは皆様にも与えられます。卒業する皆様の上に神様の守りと導きを祈ります。

(日本基督教団野幌教会牧師 福島 義人)